☆頚・肩・上肢痛

・30代 男性 寝違え

・20代 女性 交通事故後遺症

・40代 女性 右五十肩

30代 男性 寝違え

 

 昨日の昼ごろ、右首がなんとなく痛いなぁと思っていたが夕方になっても痛みが治まらないので、電話してきたとの事。

 今朝は昨日よりも首が動かせない。拍動とともにズキズキする。手足に特に症状は無し。熱感(+)。圧痛(+)。眠りから目覚めた時からの痛みではないが、おおざっぱにいうと首の筋肉の炎症による痛みであり、寝違えに近い。痛みの箇所は右側の頚全体、特に肩甲挙筋に沿って圧痛が存在している。患者さん曰く「右側の頚全体が痛い」との事。痛みは首のみだが、広がっていった感じは無いとの事。気分が悪い、頭痛などの症状も無し。動かせないのでこれ以上動きは診ないで施術へ。

 

 既往歴は小児ぜんそくのみ。昨日痛みが出る前に何か変わったことは無かったか尋ねると特にないと答えた。

 脈は、緊・数。腹診は腹直筋の緊張が強く、右季肋部(+)、中脘(+)、臍(+)、左天枢(+)、左大巨(+)。その他に特に所見は無し。天牖にも大きなコリがある。胸鎖乳突筋の緊張著明。診断は瘀血、扁桃、筋緊張。

 

 まずは瘀血処置を施すが、右季肋部が残る。やっぱり・・・

 もう一度、問診で何か変わったことは無かったですか?イライラしたことや、ストレスが溜まるような出来事は無かったですかと尋ねる。すると心当たりがあると言う。友人と言い争い、かなり頭にきて怒鳴り散らしたらしい。

 これで、首の痛みの理由がはっきりした。怒りによる肝実が右首の痛みを引き起こしたものと考える。

 右側の復溜、漏谷に微雀刺激。右季肋部確認すると柔らかくなっている。圧痛も減っている。この時点で痛みは減っていそうだと確信し、首を軽く動かしてもらう。すると「あれっ!?」ヒョイっと動き、かなり驚いている様子。治療家としては至福の瞬間(笑)。しかしまだ4割ほどは痛いとの事。4割残ってたらダメだぁと思いながら、右曲池に1センチほど刺入し刺激。するとさっきよりも楽。もう少ししつこく雀刺激を続ける。ここまでで、10あった痛みが1にまで減ったと言う。もう少し治療したかったが、ご本人はとりあえず今日はこれで満足した様子で、また明日来ると言って予約して帰って行った。

 

 翌日、来院した時も随分楽だがやはり昨日の1割の痛みが残っているとの事。

腹を診ると昨日の圧痛はほとんど無いものの、やはり腹直筋の緊張は強い。胸鎖乳突筋も緊張している。両側ともに緊張状態なので、筋緊張緩和処置の他に、足指間穴も用いる。これで痛みは消失した。

 

 患者さんには一言だけ説明しました。今回の首の痛みは肝臓に負担が来たからだと。そしてそれを引き起こしたのは、友人との言い争いだとも。怒りの感情は肝臓を傷つけると昔から言われています。そして肝臓の症状は右側に出やすいんですよと。頭に血が上るほどの怒りは自分をも傷つけてしまうので、喧嘩など仕方ないことですが、少し興奮し過ぎないよう喧嘩して下さいと伝えました(笑)。

 

  20代 女性 交通事故後遺症

 

 半年前に自転車に乗っているところ、車に横からぶつけられ(それほどスピードは出ていなかったらしい)、そのまま救急車で運ばれ入院。幸いにも脳CTスキャン、レントゲンともに異常は見つからず、2日で退院したが、その後から頸の痛み、右上肢の重だるさ、腰の痛み、右下腿の重だるさが始まり、病院にて加療、マッサージや電気治療など受けるも改善せず、来院した。

 

 頸は前に倒しても後ろに倒しても痛い。というかあまり動かない。筋肉のこわばりがひどく、そこから上肢の重だるさが出ても不思議はない(ライト・アレン(+))。腰痛は以前からあるようだが、今回の事で余計に辛さが増している。腰に関しては、理学テスト、触診では関節、靭帯の問題では無さそう。交通事故による衝撃の影響があるとすれば筋肉だけだろう。

 

 ただ、症状がすべて右に偏っていること、半年もの間、マッサージや電気治療などで筋肉にアプローチしているのにもかかわらず、変化がないことからも、身体を硬くさせている原因が別にあるだろうと予測。

 

 では東洋医学の診察へ。交通事故なのでムチ打ちの反応を探すとやはりあった。頭部瘀血が著明。脈はやや弦。腹診は季肋部が硬く、押されると気持ちが悪く、とくに右の圧痛が強い(++)。全体的に腹は押されて気持ち悪い。その他に右内陰(++)。魚際、然谷(+)。扁桃リンパ節周囲(+)。

 

 身体の所見から分かることは、

 交通事故による精神的ショックがありありと身体に残っているということ。自律神経の乱れを引き起こし、免疫機能、副腎機能の低下を起こしている。これでは身体の回復を促すことは出来ない。加えて、現代医学には無い概念ではあるが、瘀血(非生理的血液の鬱滞)、肝虚(東洋医学において肝臓はもっともストレスに弱い臓器といわれる。それがやはり弱っている所見が出ている。これが弱っていると症状が右に偏ることが多い。)、

この2つもやはりストレスの産物であり、今回の症状はこの2つを消すことで無くなるだろうと予測。回復を促す意味で免疫機能、副腎機能を賦活させ、最後に筋肉のこわばりを取り除いていくことにする。

 

 あまりストレスと連呼すると、「誰でもストレスはある」と言われてしまいそうですね、確かにその通りだと思います。誰にでもストレスはあるんだと思います。ただ、身体に出る人と出ない人に明確な違いがあるんです。ストレスの大きさは人によりけりですが、それを受け止めきれる身体の状態なのかどうかということです。身体が元気ならささいなことは受け流せますが、身体に余裕がない時は無駄にイライラしたり、受け流せないんです。当然身体にもひずみを生みます。東洋医学はそれを見逃しません。

 

 治療は先の通りに、瘀血、肝虚、副腎、免疫(扁桃)、ムチ打ち処置、鍼もお灸も使う。瘀血、副腎処置を行い、腹の全体的な気持ち悪さが軽減。肝虚処置で、右季肋部の硬さと圧痛が軽減。

 帰りはまだ頸の痛みが残るものの、二回目(1週間後)に来院した時には後ろに倒した時の痛みは消失していた。前に倒すと少し突っ張り感があるとの事。右上肢の重だるさもかなり軽減している。右足の重だるさが一番気になる様子。

 三回目(4日後)。腹部は押しても気持ち悪さは完全に消失。症状も頸、右上肢、右下肢いずれもあまり気にならないが、やはり持病の腰痛だけ残った。瘀血がまだあるので、瘀血処置と筋緊張を緩めるように刺鍼。あとはもうマッサージで大丈夫と判断。

 その後、何回かマッサージと軽い鍼をして終了。遠方からいらしていたので、あとは地元でまめにケアして下さい。と伝えた。

 

 

40代 女性 右五十肩

 

主訴:右肩痛(挙げられない。ひどいとじっとしていても痛い)

 

 右肩が痛くて挙げられなくなってもう1年ほどになるとの事。少し良くなってきた時期もあったが、さいきんまたひどくなってきて、仰向けになると右肩が痛くて夜も寝れないと来院。病院で検査しても骨にはとくに異常は見当たらない。マッサージをすると少しだけ楽にはなるが、痛みが消えはしない様子。

 

 強い痛みで安静時痛、夜間痛があるがレントゲンで所見なし、マッサージで少し楽になるのならば、石灰沈着は無いと診る。診察時、痛みは前に出ているが後ろが痛い時もあったとの事。

 来院時は痛みが強かったので全く挙げられなかったが、肩の高さまで挙げられた時期もあったという。仰向けになると肩が浮く形になる為に痛みが出やすい。この方も同様で、肩の下にタオルを入れるとやはり楽との事。他動(他人に動かされること)ならば痛みはないが痛みが出るのではないかとかなり怖々としている。腱板断裂や部分断裂も頭に入れておかねばならないが(病院でもまれに見逃されることがある。なんで??)、挙げられた時期もあるとの事でその後に何もきっかけが無いんであればそれも除外することとする。その他の理学テスト含めて診て現代医学的にいうと「腱板炎」と言えるか。

 

 では東洋医学での診察に。

 脈は「細・沈・数」。腹は腹壁緊張強い。右季肋部とくに硬い。

臍から中脘にかけて圧痛(+)。右胸鎖乳突筋(+)。 大都(+)

。扁桃リンパ節周囲硬い。

 おっとりした口調で一見ストレスがあるようには感じられないが、何かストレスを感じるようなことはありますか?と聞くやあふれんばかりに不満が出てきた。どうやら今回の肩の痛みの治りを妨げている原因はこれの気がする。脈から、交感神経の過緊張から身体が弱っていることを読み取れる上、東洋医学では臓器で最もストレスの影響を受けるのが肝臓であり、腹診でもしっかり出ている。

 

 治療は、うつ病にも使われる副腎処置と扁桃強化、とくに肝実処置にお灸も加える。臍あたりの圧痛のみ残っているが、最後に仰向けで、右半身の筋緊張をとるようツボを2か所だけ筋緊張緩和処置として刺鍼した。その状態で右肩を挙げてもらうように指示すると、痛みは全く無し。ほんの少しひっかかり感があるも痛みはきれいに消失した。

 2回目(1週間後)。痛みがまた2日ほど前から出てきたとの事。やはりかなり痛そう。処置は前回にならうが、今回は瘀血処置を追加し、臍の圧痛がとれた。それから筋緊張緩和処置を施し、痛み消失。次回は1週間空けず、もう少し早く来てもらうことにする。

 3回目(3日後)。痛みなし。治療は前回にならう。

 次回は1週間後。その次は2週間後。痛みが戻らないようなのでとりあえず終了。ただ、ストレスの原因が絶たれているわけではないので、ストレスに負けない身体を作る意味でもたまに治療しましょうねと、現在、メンテナンス通院中(月に1度程度)。

 

 痛みがあっさり取れるもまた戻る時は、何か処置が足りないか、処置が軽いかどっちかである。何回か治療したことがある患者さんだと、大体の体質が把握できるので、治療しやすくなっていく。